2015年1月11日日曜日

タイタニックの遭難は予言されたのか?:THE WRECK OF THE TITANIC foretold?

モーガン・ロバートソンの小説「 THE WRECK OF THE TITAN Or,  Futility:タイタンの遭難、あるいは愚行」、あるいは他の著者の小説や詩が現実のタイタニックの遭難を予言したのか? について、議論をまとめた本があります。


「THE WRECK OF THE TITANIC foretold? :タイタニックの遭難は予言されたのか?」
【著・編集: Martin Gardner (マーチン・ガードナー), 初版は1986年発行、上掲の本は1998年発行、邦訳は出ていないようです】

私が入手したのはペーパーバック版で、本文は157ページ、その大半は議論の対象となった小説や詩そのものの掲載に使われています。モーガン・ロバートソンとその小説についての議論には10ページが割かれ、ロバートソンの経歴と、小説に対する何人かの見解を挙げ、実際の遭難と類似している点、そうでない点を調査して見解をまとめています。

その中で、小説「 Futility(1898年版)」と「 THE WRECK OF THE TITAN (1912年版)」の違いが述べられていました。

「 Futility(1898年版)」から変更された点として挙げられていたのは、以下の通りです。
(1)タイタンの重さ:4万5千トン→7万トン(小説の別のページでは7万5千トン)
(2)タイタンの馬力:4万→7万5千馬力
(3)物語の最後に未来に希望が持てる内容の文章を追加。

興味深いことに、(1)の重さは実際のタイタニックの重さ(排水量:6万6千トン)に近くなっているのですが、(2)の馬力については逆にタイタニックの馬力(4万6千)から遠ざかる値に変更されている、と指摘されています*1。

また、ペーパーバック版の(新たに書かれた)序文では、ロバートソンの小説が最初に出版される6年前の1892年に、ホワイト・スター社が大型客船の建造を発注したという記事が新聞(New York Times)に掲載されていて、その記事の内容に合わせてロバートソンが小説を書いたのであろう、という他の本の指摘が紹介されています*2。

☆  ☆  ☆

ロバートソンの小説に対しては、タイタニック遭難の後でタイタニックに類似するように小説中の豪華客船の要目や事故の状況を書き換えたねつ造の作品である、という考えの人もいらっしゃいます(ネットで調べてみますと、こうした見解がいくつかのサイトで見つかりますが、残念なことに、何がどう書き換えられたのか具体的に書かれていません)。

しかしながら、ガードナーの調査によれば、タイタン号の要目について変更された項目が2点のみ、うち1点は(単純に見れば)「外れ」の方向に変更されているのですから、これだけを以て「ねつ造」と断定するのは説得力が足りないと思います。


本文中のガードナーの見解は、

「ロバートソンのように船乗りの経験・知識がある作家が近い将来の豪華客船の遭難の物語を書こうとしたら、船の要目や遭難の状況が現実の事故に類似するのは自然なことである」

という趣旨でした。

ガードナーは、近い将来の豪華客船の要目は当時の状況から予想可能なこと、大型の船が沈没するような事故は氷山との衝突の他には考えられないこと、その氷山が定期船の航路に流れて来て危険になるのは暖かくなる4月であるので、事故は当然4月に起きること、その他いろいろな点について、タイタニックとタイタンの共通点として取りざたされる項目が(「霊感」ではなく船乗りの経験と知識によって)一致してもおかしくないことを指摘しています。

☆  ☆  ☆

私としては、ガードナーの見解は理にかなっていると思いますし、ロバートソンが1892年の新聞記事を読んで小説中の船の要目を設定した可能性はあると思います。しかし、ロバートソンが主張していたような「霊感」に導かれて書いた、ということを信じたい気持ちも若干あります  (^ ^;

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*1:船の要目を示す「トン」や「馬力」の意味や算出方法は複数あり、タイタニックの重さ(排水量)や出力は資料によって様々です。その上、小説のタイタンの重さや出力がどの条件の値であるのか小説中に示されていませんので、厳密な比較はできません。

*2:この新聞記事は1892年9月17日付、とされていますが、New York Times のサイトで検索をかけても見当たりませんでした(調べ方が悪いのかもしれません)。
*** 2015年1月12日追記 ***
New York Times のサイトで再度検索したところ、 問題の記事が見つかりました。ガードナーの本の中で紹介された内容と同じでした。以下のリンクで表示される pdf 化された一連の記事の、下から2番目にあります。

http://query.nytimes.com/mem/archive-free/pdf?res=9F0DE3D91E39E033A25754C1A96F9C94639ED7CF

--- 以下、September 17, 1892 の New York Times から引用 ---

A HUGE ATLANTIC LINER.
 LONDON, Sept. 16. --- The White Star Company has commissioned the great Belfast shipbuilders Harland & Wolff to build an Atlantic steamer that will beat the record in size and speed.
   She has already been named Gigantic, and will be 700 feet long, 65 feet 7 (1/2) inches beam, and 4,500(原文ママ) horse power. It is calculated that she will steam 22 knot an hour, with maximum speed of 27 knots. she will have three screws, two fitted like Majestic's, and the third in the centre. She is to be ready for sea, 1894.

--- 引用ここまで ---

--- 以下、訳 ---
巨大な大西洋定期船
ロンドン  9月16日  ホワイト・スター社はベルファストの大造船会社、Harland & Wolff社に大きさと速度で記録破りになるであろう大西洋定期船を一隻発注した。この船はすでにジャイガンティック(Gigantic)号と名付けられており、長さ700フィート、幅65フィート7.5インチ、4万5千馬力となろう。航海速度は毎時22ノット、最高で27ノットと計画されている。スクリューは3器備え、うち2器はマジェスティック号と同様に取り付け、3器目は中心に取り付ける。この船は1894年に航海準備が整う予定である。
--- 訳、ここまで ---



13 件のコメント:

  1. Yasaka先生、はじめまして。衒学鬼と申します。ニコニコ生放送にて『衒学鬼のミステリーワールド』というコミュニティを主宰しております。
    実は昨夜、タイタニック号沈没の予言について検討する枠を取ったのですが、その際この記事と、先生が翻訳された『タイタンの遭難または愚行』を参考にさせていただきました。
    おかげさまで30分ひと枠を乗り切ることが出来ました。本当にありがとうございました。
    残暑厳しい折、くれぐれもご自愛下さい。

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    1. 衒学鬼様
      初めまして。
      ご連絡くださり、ありがとうございます。
      拙訳がお役に立てたようで幸いです (^ ^;

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  2. シモーヌ ビブリア2022年4月9日 23:55

    『タイタンの遭難あるいは愚行』の邦訳版を購入したいのですが、可能でしょうか?

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  3. シモーヌ ビブリア2022年4月9日 23:57

    わたしはコミケやフリマには行けません。
    『タイタンの遭難あるいは愚行』の邦訳版を郵便で購入したいのですが、可能でしょうか?

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    1. 「シモーヌ ビブリア」さん、 『タイタンの遭難あるいは愚行』の在庫が確認できました。 代金は1部700円+送料となります。 まず私の方から本をお送りして、同封の振込先(銀行)に送金をお願いする、 というやり方でよろしいでしょうか? この条件でよろしければ、送付先住所などをご連絡ください。 (そのコメントは公開しません)

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    2. 発送しました。届くまでに4、5日かかると思います。

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    3. ありがとうございます。
      楽しみにしています。

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    4. ありがとうございます。
      楽しみに読ませていただきます。

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    5. ご落掌のご連絡、ありがとうございます。ご入金頂きましたこと、確認致しました。

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    6. よかったです。
      ありがとうございます。

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    7. ご感想をくださり、ありがとうございます。

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    8. 恐れ入ります。
      先生の今後のご活躍を楽しみにしております。

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  4. モーガン·ロバートソン

    『タイタンの遭難、あるいは愚行』

           (八坂八郎·訳/私家版)

    本作は、執筆の14年後に起こったタイタニック号の事故との相似によってつとに知られる。
    その意味でも興味深い作品ではあるが、元々の題名『愚行』が示す通り、単に巨大客船の事故を描いただけのものではない。
    一人の男の魂の再生をテーマとしたドラマなのである。

    巨船タイタン号の乗務員として勤務するジョン·ローランドは、今では他人の妻となり、幼い娘を連れた過去の恋人と出会う。
    航海中の船長と一等航海士たちの不正に立ち向かいながら、幼い少女と共に氷山に取り残された彼は、いかなる運命を迎えたか?

    この物語を支えるのは、元船乗りとしての経験と知識を生かして的確に描写される、当時の船舶事情だ。
    読みやすい訳文·訳註に、適度な分量、そして興味のつきない展開に、一気に読み終えてしまった。
    読後、目が潤んだのは、歳のせいだろうか。
    実際のタイタニックの事故との比較に興味のある人も、人生のドラマに興味のある人も、共に満足出来る隠れた傑作。
    ここには、作者ロバートソンの、すなわち、十九世紀英国の船乗りの見識、価値観、そして人生観のすべてがある。(訳者解説付)

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